大判例

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最高裁判所第三小法廷 平成6年(オ)1014号 判決

上告人

三好長子

被上告人

綾南町

右代表者町長

藤井賢

右訴訟代理人弁護士

田代健

主文

原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。

本件を高松地方裁判所に差し戻す。

理由

上告人の上告理由について

一  本件は、物上保証人に対する抵当権の実行としての不動産競売事件において作成された配当表について、債務者である上告人が提起した配当異議の訴えであり、上告人は、被上告人の交付要求に係る租税債権は既に納付済みであるなどと主張している。

二  記録により認められる事実関係の概要は、次のとおりである。

1  三好常三郎所有の本件不動産には、平成元年一二月二七日、岸田悦男を抵当権者、上告人を債務者とし、債権額を一二〇〇万円とする本件抵当権が設定された。また、本件不動産には、平成二年四月一七日、岸田を根抵当権者、上告人を債務者とし、極度額を一二〇〇万円とする本件根抵当権も設定された。

2  岸田は、平成四年一月一六日、高松地方裁判所に対し、本件抵当権の実行として不動産競売の申立て(同裁判所同年(ケ)第二号事件)をし、同裁判所は、右同日、競売開始決定をした。右競売における本件不動産の売却代金は、三一〇〇万円であった。

3  岸田は、右競売手続において、本件根抵当権の被担保債権について元本及び利息等合計一三〇三万九〇一〇円の配当要求をした。また、被上告人は、右競売手続において、常三郎が滞納していた固定資産税等について交付要求をしたが、その額は、法定納期限が昭和六二年五月三一日から平成元年一〇月三一日までの分については本税及び延滞金等合計一三一万四八一六円、法定納期限が平成元年一二月三一日から平成二年一月三一日までの分については本税及び延滞金等合計一〇万五三二八円であった。

4  平成五年五月一三日に開かれた右競売事件の配当期日において、順位一番として申立人である岸田に手続費用について五八万二七三〇円を、順位二番として被上告人に法定納期限が昭和六二年五月三一日から平成元年一〇月三一日までの租税債権について一三一万四八一六円を、順位三番として岸田に本件抵当権の被担保債権について一九二〇万円(元本一二〇〇万円及びこれに対する年三割の割合による最後の二年分の遅延損害金七二〇万円の合計額)を、順位四番として上告人に法定納期限が平成元年一二月三一日から平成二年一月三一日までの租税債権について一〇万五三二八円を、順位五番として岸田に本件根抵当権の被担保債権について九七九万七一二六円をそれぞれ配当するとの内容の本件配当表が作成された。

5  上告人は、右配当期日に出頭し、被上告人を含む全債権者への配当額について異議の申出をし、平成五年五月一九日、本件の配当異議の訴えを提起した。

三  原審は、不動産を目的とする担保権の実行としての競売の手続について、民事執行法一八八条において準用する八九条一項及び九〇条一項の規定に基づき配当異議の申出等ができる「債務者」とは、剰余金がある場合にその交付を受ける差押え時の不動産の所有者を指し、物上保証に係る被担保債権の債務者は含まれないから、本件不動産の所有者ではなく、単に右不動産に設定された本件抵当権の被担保債権の債務者にすぎない上告人は、本件の配当異議の訴えについて原告適格を有しないとして、これと同一の理由により本件訴えを却下した第一審判決に対する上告人の控訴を棄却した。

四  しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

不動産を目的とする担保権の実行としての競売における配当手続については、民事執行法一八八条において、不動産に対する強制競売における債務者の配当異議の申出等に関する同法八九条一項及び九〇条一項の規定が準用されている。そして、競売申立てに係る抵当権が当該不動産の所有者以外の者の債務の担保のために設定されたものである場合には、右準用に係る規定における「債務者」には、当該不動産の所有者のほか、右被担保債権の債務者も含まれ、右債務者も、被担保債権その他自己の債権者の債権への配当額に変動を生じ得る範囲において、配当異議の申出等をすることができると解するのが相当である(最高裁昭和四九年(オ)第一九号同年一二月六日第二小法廷判決・民集二八巻一〇号一八四一頁参照)。けだし、右債務者は、競売申立てに係る抵当権の被担保債権に対する配当による弁済について所有者から求償権の行使を受けることがあり(民法三七二条、三五一条)、また、当該不動産の売却代金の配当を受けるべき債権には、右被担保債権以外にも右債務者に対する他の債権が含まれていることがあるところ、これらに関し、配当手続においていずれの債権者に幾らの配当がされて、最終的に自己の総債務がいかほど減少するかについて固有の法律上の利害関係を有しており、他方、被担保債権の弁済等の事情に通じた右債務者に配当異議の申出等を認めることによって、結果的には所有者や他の債権者にとっても利益となる適当な配当の実施が期待でき、配当に関する後日の紛争発生の防止も期待することができる上、民事執行法一八二条は右債務者が被担保債権の消滅等を理由として不動産競売の開始決定に対して執行異議の申立てをすることを認め、右債務者を当該競売手続においては所有者に準ずる地位にある者として扱っているのであって、右債務者の配当額についての不服申立ての方法を債務不存在確認の訴え等の別訴を提起することにあえて限定すべき理由も存在しないからである。

これを本件についてみるに、上告人は、競売申立てに係る本件抵当権の被担保債権の債務者であるとともに、本件根抵当権の被担保債権の債務者でもあるところ、被上告人のした交付要求に係る租税債権に対して本件根抵当権の被担保債権よりも優先して配当がされる結果、右被担保債権についてはその一部についてしか配当がされない結果となっている。したがって、上告人は、上告人の交付要求に係る租税債権に対する配当額を争う利益を有し、配当異議の訴えを提起することができるものというべきである。

五  そうすると、原判決には法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件訴えを却下した第一審判決を取り消して、本件を第一審に差し戻すべきである。

よって、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、三八八条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官園部逸夫 裁判官可部恒雄 裁判官大野正男 裁判官千種秀夫 裁判官尾崎行信)

上告人の上告理由

一 原判決には、法令の解釈適用を誤った法令違反があり判決に影響をおよぼすことが明らかである。

(一) 原判決は「原告は、本件不動産の所有者ではなく、単に右抵当物件に設定された抵当権の被担保債権の債務者に過ぎないことが明らかであるところ、担保権の実行に係る配当手続において配当異議の申し出ができる「債務者」(民事執行法八九条一項、九〇条一項)とは、差押時の担保不動産の「所有者」を指し、その配当につき利害関係を有しない(……)物上保証における被担保債権の債務者は含まれないから、控訴人は本件訴えにつき原告適格を有しないものというべきである。」として控訴人の原告適格を認めなかった。

(二) しかし、高松高等裁判所第四部は上告人と訴外岸田悦男との間の平成五年(ネ)第二九二号配当異議控訴事件において、平成五年一二月三日言渡の判決で、以下のように述べて担保権実行時の所有者以外の者に原告適格を認めている。

「民事執行法に基づく担保権の実行としての不動産競売手続については、同法一八八条により、不動産に対する強制競売に関する規定が準用されるところ、配当異議の申出等に関する同法八九条一項、九〇条一項にいう「債務者」は、担保権実行においては「債務者及び所有者」と読み替え、担保権実行に伴う差押時における担保物件の所有者のみならず、当該担保権の被担保債権の債務者も、配当異議の申出をすることができ、配当異議訴訟の原告適格を有するものと解するのが相当である。けだし、右被担保債権の債務者は、売却代金が自己のいかなる金銭債務に充当されるかについて法律上利害関係を有する者であるし、また、売却代金の配当手続の段階において、事情に通じた被担保債権の債務者につき配当異議の申出を認めることにより、配当手続を厳正にし、適正な売却代金の実施が期待でき、配当に関する後日の紛争を防ぐことができるからである。」

(三) 前記民事執行法の条文の解釈としては、前記のとおり差押時の物件の所有者以外の者にも原告適格を認めた判決が正当であり、原判決はその解釈を誤ったものである。

上告人は、第一審の平成五年八月一八日準備書面で述べたとおり、被上告人との間で税金納付につき契約上の債務者になっている。

原判決の前記法令解釈の誤りは、判決に影響をおよぼすことが明らかであり原判決は破棄されるべきである。

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